本記事では荒地の家族のあらすじと感想をまとめています。結末に関わるネタバレはありませんが、お話の冒頭には触れますのでお読みになる際はご注意ください。
今回は佐藤厚志著「荒地の家族」をご紹介いたします。
当たり前の生活がすべてひっくり返された東日本大震災、私自身も高校生の時に地元である宮城県仙台市で被災をしました。
愛する故郷の惨状を目の当たりにしたあの日、思い出すだけで心が痛みます。
多くの人々の記憶に残るこの厄災をテーマにした本書は、東日本大震災を経験した人々が被災地である宮城県で何を想いどう生きているのかをリアルに表現した作品です。
決して忘れてはならない震災をいまいちど振り返ることのできるお話でした、下記にてあらすじと感想を綴っていきますのでご参考までどうぞ。
荒地の家族の概要とあらすじ
2023年1月新潮社より刊行、第168回芥川賞の受賞作品です。
著者である佐藤厚志さんは宮城県仙台市のご出身。
同市在住で市内にある書店「丸善 仙台アエル店」に勤務している現役書店員さんです、アエルの丸善は私も個人的に何度も通っており大変お世話になっております!
ちなみに余談ですが本書を購入するときは絶対この仙台アエル店で!と心に決めていたんですけど、実際に購入したときなんとカウンターの中に佐藤厚志さんご本人の姿が…!
本当に芥川賞受賞作家が本屋さんで働いているなんて…読書好きにはたまらない店舗じゃないでしょうか、もちろんサイン本を購入させていただきました。
そういえばサイン本の販売開始はX(当時はTwitter)で知ったので、取り置きしてもらおうと店舗に電話した時に男性店員さんが受けてくれたんです、もしかすると佐藤さん本人だった可能性もありますよね…?笑
私、芥川受賞作家さんと喋ってしまったかも…しかもご本人にご本人のサイン本欲しいですとお伝えしてたかも…恥ずかしいかも…!なんて阿呆な妄想も膨らませています。
あらすじ
ここからは荒地の家族のあらすじをまとめていきます。
あの災厄から十年余りの歳月が過ぎた。
被災地で暮らしている40歳の植木職人・坂井祐治は天災の2年後に妻である晴海を亡くし、再婚相手である知加子には家を出ていかれ離婚を切り出されている。
いまは自分の母親とともに息子の啓太との3人暮らしだ。
誰もが元の生活に戻りたいという、しかし「元」は人によってそれぞれ時代も場所も感情も異なる。
慣れ親しんだ家、友達と通った学校、家族とよく行った店、楽しさや嬉しさを感じることのできる豊かな感情。
それらは厄災が起こったあの日、膨張した海によって全てひっくり返った。
一度ひっくり返されたそれらは元通りになどなりようがない、それでもこのくすぶった感情を持ってしても、人々は荒地で生きなければならない。
永遠に終わることのないであろう渇きと痛み、祐治は今日も荒地を彷徨い続ける。
荒地の家族の感想
主人公である坂井祐治の生活を中心に、震災から十年以上が経過した宮城県の亘理町や仙台を舞台に話が進んでいく、とてもリアリティのあるお話でした。
震災をテーマにした本作、物語は終始淡々と虚無感のようなものが漂っているように感じ、登場人物たちの心には曇り空のようなもやもやした感情が震災からこれまで、そしてこれからも永遠と続いていくようなそんな印象を受けました。
前向きな気持ちを取り戻しほぼこれまで通りに生活できている人もいれば、永遠に終わることのない絶望感に自死を選んでしまった人など、本当に様々な人がいると思います。
復興も進みほとんど元通りになったように見えるものも、被災地で暮らす人々から見れば震災前とまるっきり同じに戻ることは決してない、その事実を受け止めて生きなければならないという現実をまざまざと感じさせられます。
私自身も宮城県で生まれ育ち、実際に震災を経験しましたがあの厄災は間違いなく一生忘れることのない出来事です。
揺れる大地、燃える街、迫る津波、降り注ぐ放射線、私が住んでいた地域は幸いなことにそこまで被害は大きくありませんでしたが、元の場所に住めなくなってしまった人たちの心境を考えるとやるせない気持ちでいっぱいになります。
また前述した通り本書は震災をテーマにしていますが、文章の中に「震災」という言葉が出てこないところがとても印象的でした、その代わりに「災厄」と表現したり、「津波」と言わず「海が膨張する」などと表現しています。
これは下記インタビュー記事でも佐藤厚志さん本人がお話しており、やはり意図的にこれらの言葉を使わないようにしていたそうです。
震災から十年以上が経ちほとんどの地域で復興は進みましたが、過去の記憶によって未だ苦しんでいる人はたくさんいます。
決して忘れぬよう、私たちに語りかけているのではないかと想像するとともに、改めて芥川賞という後世にも伝わる文学賞を受賞したことに大きな意味を感じました。
まとめ
今回は荒地の家族のあらすじと感想についてまとめました。
決して忘れてはならない震災、そしていまも被災地で暮らす人々の暮らしを改めて考えることができた芥川賞にふさわしい作品であったと思います。
震災のことを後世に伝えるのは現代に生きる私たちにしかできないことです。
この本を読んだ方々が少しでも震災について考える時間が持てたら良いなと思います。
本記事の内容が参考となりましたら幸いです。