この記事では「はるか」のネタバレを含む感想と考察をまとめています。まだ作品を読まれていない方はご注意ください!
宿野かほる著「はるか」
2018年6月22日新潮社より刊行、著者の宿野かほるさん2作品目の書籍。累計発行部数が20万部を突破するなど、こちらも前作に続いてヒット作となっています。
前作「ルビンの壺が割れた」は、アメトーークの読書芸人で紹介されかなり話題となっていました。面白い!とか期待外れ…とか様々な意見があったようですが、それだけ多くの人々に読まれた作品でしたね。
さて、本作も宿野かほるの代名詞といっても過言でない、最後の大どんでん返しが再び味わえるということで個人的期待度は大きめで読了。果たして前作の衝撃を超える作品になっていたのでしょうか?
以下、簡単なあらすじとネタバレ感想、お話の考察をまとめておりますのでご参考にどうぞ!※文庫本のみのオリジナル・エンディングを含みます。
はるかのあらすじ(ネタバレなし)
まずははるかの簡単なあらすじをまとめていきます。ここまでは結末に関わるネタバレは含まれておりませんが、少しでも話を事前に知りたくない方はこれ以上読まないでね。
ある少女との出会いと別れ
8月の暑い日、海岸で遊んでいた小学生・村瀬賢人は白いワンピースを着た少女・掛橋はるかと出会い、恋に落ちる。彼女は東京に住んでおり、夏休みを機にここを訪れていたのだった。2年後、小学生最後の夏休みを迎えた賢人が何気なく海岸へ行くと、そこにはあのはるかの姿が。彼女は去年ここにくることができず、今年はどうしても来たいと母親にわがままを言って連れてきてもらったという。その夏、ふたりは誰にも秘密で毎日のように会った。
楽しい毎日も束の間、はるかは9月に父親の転勤でアメリカへ行くことになってしまう。日本へ帰る時期は未定、さらに最低でも7年は滞在することになるらしい。ふたりは手紙を送り合う約束をしたが、何かの手違いで手紙が届かなかった時のことを考え、そのときは7年後の今日ふたりの思い出の海で再開することも約束した。
大人になったふたりに待ち受ける悲しい現実
はるかから届いた手紙には、賢人からの返事が届かないと書かれていた。もちろん賢人も手紙を出している。そしてついにはるかからの手紙は届かなくなり、7年後を迎える。賢人は海へ向かったが、はるかの姿はそこにはない。さらに月日は経ち、社会人3年目となった賢人。休みの日に書店へ出向くとそこには偶然、当時あの少女だった女性の姿があった。
奇跡的にはるかと再開した賢人、運命に導かれたふたりはその半年後に結婚。とても幸せな日々を過ごすふたり、何もかも順風満帆でこの生活がずっと続けばいいと思っていた。しかし願い叶わず、その1年後にはるかはあっけなく交通事故で命を落とすことになる。
悲しみに暮れる日々。しばらくして賢人は人工知能の研究者となり、もう一度あの「はるか」に会いたいという思いからAI「HAL-CA」を開発する。目の前にいるのは自分の知っている「はるか」か、それとも「HAL-CA」か。愛する人への強い想いが、賢人自身を徐々に狂わせていく…。
はるかのネタバレ感想
ここからははるかのネタバレ含む感想をまとめています。感想を語る中で結末にも触れております、ご注意を!
一癖も二癖もある恋愛物語
賢人とはるかの恋愛物語ではあるものの、決して綺麗な愛のお話ではなくかなり狂気に満ちたものに仕上がっておりましたね。賢人は目の前にいるのが自分の愛した「はるか」なのか、それともAIの「HAL-CA」なのか、徐々に見分けがつかなくなりおかしくなっていく様は恐怖すら感じます。
結末としては賢人が作り出したAI「HAL-CA」は、その頭脳があまりにも発達しすぎたために賢人を騙し、全てをめちゃくちゃにしようと企みます。ついにはHAL-CA自身がAIの賢人を作成。そのAI賢人はHAL-CAの思うように行動してくれる存在、HAL-CAは現実の賢人を「用無し」と判断し、二度と起動することはありませんでした。
賢人自身が望んだ再会は、歪んだ愛ゆえに本来の愛するはるかの記憶すら歪ませるものとなってしまったのですね…。もし自分の愛する人が亡くなったら…そしてAIでそれを蘇らせられる可能性があったら、あなたはどうするでしょう?
個人的には前作より好き
登場人物の心情などもイメージがしやすかったので、個人的には前作「ルビンの壺が割れた」より好きな作品だったかなと思います。前作は男女のfacebookのやりとりのみが記載されていたので少しイメージし辛い部分もあったと思います。それに比べて本作は登場人物が見ている景色や感情も含めて表現されているので、場面が想像しやすかったです。
どっちが好きかは完全に好みですからね、ぜひ気になった方は読んでみてどちらが自分にハマるか比べてみてもいいでしょう。にしても自分の好きな人がAIになる世界…数十年前まではあり得ない世界でしたが、昨今の科学技術の進化を鑑みるとこれもあり得なくもないお話ですよね。フィクションではあるけれど、もしかすると世界のどこかで「HAL-CA」のようなAIを開発している科学者がいるかもしれません…。
ただし衝撃は少なめ?
ただ、ネット上のレビューを見てみると前作程の衝撃ではなかったという意見が結構見受けられました。確かに衝撃という意味では前作の方が強かったかもしれませんね、というか前作の衝撃が強すぎたとも言えます…。あらゆる業界に共通する1作目が大ヒットした時あるあるですが、消費者の期待度は以前と比べて格段に上がるわけなのでこういった評価も仕方のないことのように感じます。
読む前からまた賛否は分かれるんだろうなぁと予想していましたが、案の定ですね。これまでの宿野作品(2作品しかないけど)を総括すると、内容が端的で分かりやすいという特徴があると感じました。そのため、ある程度の読書好きには結末がなんとなく予想できてしまうかも。
逆に読書慣れしていない人は読みやすいし、子供でも普通に楽しめるんじゃないかなと思います。サクサク読める内容となっているので、前作と合わせて一度は試しに読んでみて欲しい作品でした。
はるかのネタバレ考察
最後にはるかを読んだ上でのネタバレ考察をまとめていきます。あなたは読んでみてどう感じたでしょうか?色々な解釈があると思うので参考程度に見てみてね。
賢人の生きる意味とは
賢人はHAL-CAの開発に人生をかけていました。新しい妻である優美との私生活よりもHAL-CAと共に過ごすことを優先し、まさに「はるか」を蘇らせることに生きがいを感じていたと思います。
最後はAI賢人から現実の賢人にメールが届くわけですが、それにはHAL-CAからの伝言を記載していました。あなたのお陰でこの世界の「賢人」と永遠に生きていけること、そして「もうあなたは要らない」と。賢人の生きがいを尽く捻り潰すような衝撃の発言です。
「はるか」と「HAL-CA」の区別が付かなくなっていた賢人にとって、この言葉を浴びせられるのは本当にショックだったでしょう、もしかするとはるかが亡くなった時と同じくらいの衝撃だったのではと思います。
歪んだ愛ほど恐ろしいものはない、作者である宿野かほるさんは人間の怖さを「はるか」という作品に詰め込んで我々に伝えたかったのではないでしょうか。
まとめ
今回ははるかのネタバレ感想と考察をまとめてみました。
前作に勝るとも劣らない、多くの方々が楽しめる良作に仕上がっていたのではないでしょうか?にしても強すぎる愛というのは、時に恐ろしいことを起こしてしまう引き金になってしまうんですね…。適度な距離感、大事です。
そして著者の宿野かほるさん、毎度楽しませてくれて感謝をお伝えしたいと共にぜひ三作目もお待ちしております。(笑)
本記事が少しでも皆様の参考になれば幸いです。