本記事はアイネクライネナハトムジーク(小説版)のあらすじと読んだ感想を簡単にまとめています。ネタバレ含んでおりますので、まだ読まれていない方はご注意ください!
伊坂幸太郎著「アイネクライネナハトムジーク」
数々の名作を残している名作家・伊坂幸太郎さん。
自身の住む宮城県の仙台市を舞台にした作品が多いことでも有名で、本作でも仙台が登場。
クラシック好きの方ならピンときているかもしれませんが、本作タイトルはかの有名な音楽家・モーツァルトの楽曲「アイネクライネナハトムジーク」から名付けられているんです。
クラシック音楽から採られたタイトル、その内容も気になりますね。
今回はアイネクライネナハトムジークの簡単なあらすじと共に読んだ感想をまとめていきたいと思います。
アイネクライネナハトムジークの概要とあらすじ
2014年9月26日幻冬舎より刊行、その後2017年8月4日文庫化。
2015年の第12回本屋大賞にノミネートされており残念ながら大賞の受賞とはなりませんでしたが、著者の伊坂幸太郎さんは本作でなんと8回目のノミネートというとんでもない記録を叩き出しています。
しかも過去には「ゴールデンスランバー」で2008年の本屋大賞を受賞していますからね、2015年までの本屋大賞では半分以上で伊坂作品がノミネートされているのでほぼ常連さんです。
先にも述べた通りタイトルの「アイネクライネナハトムジーク」はモーツァルトの曲名から名前が付けられており、日本語では「ある小さな夜の曲」という意味だそう。
内容は以下6つのお話を合わせた短編集で、各話がその後のお話にうまいこと関わってきます。
- アイネクライネ
- ライトヘビー
- ドクメンタ
- ルックスライク
- メイクアップ
- ナハトムジーク
この作風は「週末のフール」など他作品でも見受けられており、まさに伊坂幸太郎さんが得意としている形ですね。
いわゆる伏線の回収とは意味合いが異なってくるかもしれませんが、ここがこうして繋がるんだなぁと良い意味で予想を裏切られます。
読み進めるごとに点と点が繋がっていく、驚きと共にとても楽しむことができますよ!
また2019年には俳優の三浦春馬さんが主演を務めた映画も公開されました。
あらすじ(アイネクライネ)
マーケットリサーチ会社で働く佐藤は、駅の西口にあるペデストリアンデッキでアンケート調査を行っていた。
普段はインターネットで回答を集めるアンケートだが、その日は街頭調査という古い手段を使わざるを得ない状況だった。
なぜならネットで集めた調査データが、ある出来事によって消えてしまったからだ。
バックアップも毎日行なっていた大切なデータが消えたのはなぜか?
答えは簡単で、妻が家から突然出ていった先輩社員・藤間がサーバーの修復作業中に気が動転し机を蹴飛ばした結果、隣に置いてある棚が倒れサーバーのハードディスクが破損したのだ。
その横で共に作業をしていた佐藤はすかさず手を伸ばすが、不幸なことに持っていた缶コーヒーが零れバックアップテープを濡らしてしまう。
このことを課長に報告すると、幸い別の場所へしまってあったテープからほとんどのデータを復旧できることが判明。
しかし課長は迷惑を掛けた代償として定時後のアンケート調査(残業代なし)を佐藤へと命じ、現在に至る。
街頭アンケートはなかなか人を捕まえることができず苦戦を強いられていた。
駅構内は今晩行われる日本人ボクサーのヘビー級タイトルマッチを大きな画面で流していて、盛り上がりを見せている。
それを横目に正面から歩いてくる小柄とも大柄とも言えない女性に祈る想いで話しかけると、驚くことに彼女はアンケートに協力してくれたのだった。
映画情報
2019年9月20日公開、監督は今泉力哉さんで映画「からかい上手の高木さん」などの監督としても知られています。
主演は俳優の三浦春馬さんで、主要キャストは以下の通りです。
- 佐藤:三浦春馬
- 本間紗季:多部未華子
- 織田一馬:矢本悠馬
- 織田由美:森絵梨香
- 織田美緒:恒松祐里
- 亜美子:八木優希
- 藤間:原田泰造
- 久留米和人:萩原利久
- ウィンストン小野:成田瑛基
- 美奈子:貫地谷しほり
- 板橋香澄:MEGUMI
- セコンド:伊達みきお(サンドウィッチマン)
- セコンド:富澤たけし(サンドウィッチマン)
- 斎藤:こだまたいち
なんとサンドウィッチマンのおふたりも出演されているんです、ショートコントでも高い演技力を発揮していますしおふたりとも仙台のご出身なので納得の配役ですね。
さすがは仙台に縁のある伊坂作品ということで撮影もオール仙台ロケで行われています、過去にはゴールデンスランバーも全て仙台で撮影がされていましたね!
アイネクライネナハトムジークの感想(ネタバレあり)
ここからはアイネクライネナハトムジークを読んだ感想をネタバレを含めてまとめていきます。
結末にも触れていますのでまだ読まれていな方はここから十分注意してくださいね。
短編集ならではの読みやすさ
本作は6つのお話を通して登場人物の過去や現在を追っていく物語。
1つのお話は40〜50ページで構成されており、最後の「ナハトムジーク」は若干長めながらそこまで時間を掛けずに読むことができ読書初心者でも途中で飽きずに読み切ることができるでしょう。
登場人物のセリフ量もそれなりに多いので、どんな人物で何を考えているのかが想像しやすく読書感想文にもぴったりに感じます。
またそれぞれのお話タイトルは内容に沿ったものが付けられており、読めばなぜこのタイトルが付けられているのか理解することができます。
うまくいかないことがたくさんある日常の中でも良いことが必ずある。
文庫版の帯には「明日がきっと楽しみになる魔法のような物語。」と記載がありましたが内容はまさにその通りで、何気ない日常の中でも楽しみを見出せるきっかけとなる作品です。
徐々に絡み合う物語
始めの「アイネクライネ」では佐藤、「ライトヘビー」では美奈子とウィンストン小野、「ドクメンタ」では藤間と話の主要人物は変わりますがところどこに以前聞いた名前が散りばめられています。
それらの登場人物は意外なところでも関わりを見せ、それがまた発展し別の人物へと繋がり…というように徐々に物語が絡み合い結末へと導かれていきます。
特に「ライトヘビー」では板橋香澄の弟・学と美奈子が電話友達となり、話すに連れて徐々にお互いの心情にも変化が。
美奈子は最後までなんてことない良い人だと思い込んでいましたが、実はその正体はヘビー級ボクサーでこの度世界チャンピオンへと挑戦することとなったウィンストン小野でした。
試合は1つ目のお話「アイネクライネ」でも駅構内の画面で流されていて、ウィンストン小野の名前こそ出ませんでしたがこのように徐々にお話がつながっていくんです。
何気ないところにヒントが隠されていて自分の中で点と点が繋がった瞬間がとても爽快、何度でも読み返したくなってしまう物語でした。
素敵で微笑ましい終わり方
全ての話が繋がる最後のお話「ナハトムジーク」。
こちらはウィンストン小野がスタジオで過去の試合のインタビューを受けるお話が主軸にあり、観覧席でその様子を眺める妻の美奈子や、過去に遡ってこれまで出会った佐藤、織田一馬&由美などのエピソードが語られます。
特に面白いのは最後の終わり方、ウィンストン小野は試合中にラウンドボーイを務めていた男の子について質問されました。
彼は過去に行った試合の10ラウンド目でラウンドボーイを務めており、当時の試合で押され気味だったウィンストン小野に対し右手で自分の左肩を叩き、その後に右肩を叩く手話を行います。
そして「ROUND10」と書かれたボードを真っ二つにへし割るとスタッフに連れて行かれてしまいました。
この手話はウィンストン小野が過去に出会っていた、耳が聞こえづらいが故にいじめを受ける少年とのエピソードにてその少年が行なっていたものであり、「大丈夫」という意味があります。
その際一緒にいた織田一馬は少年に対し、いじめられた時には威嚇をすればいいと木の枝を折ろうとしますが折れず、代わりにウィンストン小野が軽々と折っていました。
つまり連れて行かれたラウンドボーイは当時の少年であり、過去ウィンストン小野と出会った時のエピソードをリング上で再現していたんです。
こんなところでも伏線回収…まさかここでも繋がるとは、いかに物語が緻密に計算されているのかが分かりますね。
その少年は今では国際的なモデルになっているとのことで、それがきっかけで彼は有名になったのでは?と問われたウィンストン小野は、あくまで彼の実力でそうなったと答え物語は終わりを迎えました。
何がきっかけになるかは分からない、だから人生は面白いと言える。
もしかしたら今日初めて出会った人が自分の人生を変えるキーマンになり得るかもしれない、そんな希望を持たせてくれるお話がギュッと詰まっています。
心が暖かくなりどこか微笑ましい、とても素敵な終幕で多くの人におすすめしたい作品でした。
アイネクライネナハトムジークのあらすじと感想まとめ
今回はアイネクライネナハトムジーク(小説版)のあらすじと感想を簡単にまとめてみました。
多くの登場人物が出てくる本作ですがそれぞれの背景が丁寧に描かれていて大変読みやすい作品です。
毎度のことながら伊坂作品は完成度が高く、あっという間に読み切ってしまいます…。
いつか全作制覇を成し遂げるために、これからもお世話になります伊坂さん!
この他にも伊坂幸太郎さんの作品でレビュー記事をまとめているので、ぜひご覧になってみてくださいね。
本記事が少しでも多くの方の参考となりましたら幸いです。