本記事では夜のピクニックのネタバレ感想と簡単なあらすじをまとめています。まだ読まれていない方はご注意ください。
恩田陸著「夜のピクニック」
夜にピクニック?なかなか聞かない言葉なので耳に残りやすいタイトルです。お話はある高校の行事「歩行祭」を舞台に物語が展開していきます。
私の高校では歩行祭ではなくマラソン大会がありましたが、やはり大半の生徒は乗り気ではありませんでした。当時はとても憂鬱だったけれど今となってはいい思い出です…。
そんな話は置いといてさっそくあらすじとネタバレ、感想をまとめていきます。
夜のピクニック概要
2004年7月新潮社より刊行。恩田陸さんの青春小説の傑作にして代表作の1つです。
第2回本屋大賞をはじめ、第26回吉川英治文学新人賞を受賞。
本作の主題となる「歩行祭」は著者・恩田陸さんの母校である茨城県立水戸第一高等学校の行事「歩く会」がモデルとなっています。歩く会は歩行祭に比べて10km少ない70kmであったそうですが、それでもかなり過酷そうです…。
夜のピクニックの簡単なあらすじ
西脇融と甲田貴子が通う北高は鍛錬歩行祭、通称「歩行祭」が伝統行事となっており、例年秋の時期に行われる。今年2人は3年生となり、これから受験も控えている。高校最後の行事である歩行祭は全校生徒が24時間で80kmの道のりを夜通し歩くという、なかなか過酷な内容だ。
融と貴子は今年同じクラスとなったが、クラスメイトには言えない秘密を抱えている。彼らは同じ父親を持つ異母兄弟だった。どこか気まずさを感じながら2人はこれまで話すこともできずにいた。そんな状況の中、貴子はある想いを抱きこの歩行祭へと臨むのだった。
学校生活の思い出、これからの進路、遠くに行った親友、恋、様々なこと1日中語りつつ、彼女たちは長い長い道のりを歩んでいく。
夜のピクニックの登場人物
- 西脇融(にしわき とおる):本作の主人公、貴子の異母兄弟
- 甲田貴子(こうだ たかこ):本作の主人公、融の異母兄弟
- 戸田忍(とだし のぶ):融の親友、過去に亮子と付き合っていた
- 遊佐美和子(ゆさ みわこ):貴子の親友、和菓子屋の娘でモテる
- 榊杏奈(さかき あんな):貴子のもうひとりの親友、現在はアメリカで生活している
- 後藤梨香(ごとう りか):融と貴子のクラスメイト、毒舌
- 梶谷千秋(かじたに ちあき):融と貴子のクラスメイト、のっぽ
- 榊順弥(さかき じゅんや):杏奈の弟、姉の好きな人を探るため歩行祭に飛び入り参加した
- 高見光一郎(たかみ こういちろう):融と貴子のクラスメイト、ロックが好きで夜になると元気になる
- 内堀亮子(うちぼり りょうこ):美和子のクラスメイト、忍と過去に付き合っており今は融に想いを寄せる
夜のピクニックのネタバレ
ここからは夜のピクニックのネタバレを大いに含みます!結末についての要約と感想をまとめてみました。
ネタバレ要約
貴子の親友である遊佐美和子とアメリカへ引っ越した榊杏奈は、貴子と融が異母兄弟であることを貴子の母親に聞かされていました。そのことを美和子は貴子に初めて打ち明けます。
歩行祭も終盤に差し掛かった中、戸田忍と一緒に走っていた融は膝を庇いながら進んでいたために足首を痛めてしまいます。
途方に暮れていると美和子と貴子が通りがかり、美和子の提案で融の荷物を手分けして持つことに。思いがけず4人で歩くことになってしまい、融と貴子に気まずい雰囲気が流れます。
歩行祭には杏奈の弟・順弥が飛び入り参加しており4人と合流。杏奈が過去に友達のきょうだいが好きだったことを話すと、忍は融と貴子がきょうだいであることを察するのでした。
歩行祭最後のチェックポイントに入ると内堀亮子が融に駆け寄ります、彼女は融のことが好きで最後は一緒に歩こうと提案します。断ることができず歩いていると高見光一郎が助け舟を出します。
光一郎が友人と共に亮子を囲うと、彼女は状況を理解できないままそこへ巻き込まれていきました。そして察したかのように美和子と忍もそこへ加勢にいきます。
貴子と融は初めて2人で会話をすることになりました。貴子は歩行祭で、ある賭けをしていました。それは融ともし話すことができたら父親のお墓参りに誘うというものです。
しかし、「これまで」ではなく「これから」のことを考え、貴子はお墓参りではなく自分の家に遊びにくるよう融を誘います。融は喜んで快諾し、改めてこれまでの思い出に耽るのでした。高校生活でほとんど青春ができなかったという2人ですが、いまこの瞬間がとても青春っぽいことに気付き笑い合うのでした。
順弥は先回りしてゴールで貴子と美和子を待っています。柔らかな陽射しを感じていると彼女たちの姿が見え、向こうもこちらへ気付き、順弥は嬉しそうに駆け寄っていきます。彼の「夜のピクニック」は終わりを迎えるのでした。
夜のピクニックのネタバレ感想
親の都合で気まずくなってしまったきょうだい
融と貴子は同じクラスになったことでより気まずさを感じるようになりました。父親のお葬式ではそれぞれ母親と同じ場にいましたがもちろん会話はせず。2人は悪いことなどしていませんが、父親のせいでどこか罪を犯したような意識がずっとあります。
高校3年生という感受性が特に豊かな時期だからこそ、お互いの想いを意識し過ぎて余計に話せなくなってしまったんでしょうね。その背景を知るごとに2人の口には出さない辛さがひしひしと伝わってきました。
最後は無事和解し、融は貴子の家へと訪れる約束を交わします。その後については小説内で言及されていませんが、貴子の母親も暖かく迎え入れてくれたことでしょう。融の母親にとって貴子の母親は夫の浮気相手、貴子が融の家を訪れるのはずっと先のことになると融も話していましたが、いつか2人がお互いの家を気軽に行き来できるような明るい未来が訪れると良いですね。
頼れる親友の存在
主題となるお話は融と貴子のお話ですが、2人を支える親友たちの存在も忘れてはいけません。
融の親友である忍はとにかく良いやつです。友達の相談に親身に乗ったり誰にでも分け隔てなく接するので校内でもきっと人気者でしょう、融も彼には信頼を寄せています。終盤では貴子に想いを寄せているような言動もありましたが、貴子のことを考えて冗談交じりに話す様子も彼の優しさが伝わります。
そして貴子の親友である美和子と杏奈。
杏奈は既にアメリカに引っ越していたので回想のみの登場。以前彼女が貴子へと送った葉書には、悩みが解決するようおまじないを掛けておいたと書いていました。結果として隠し事ができない弟の順弥を自分の変わりに歩行祭へ参加させることがその「おまじない」かと思われ、融と貴子は悩みが解決したのでおまじないの効き目は抜群でしたね。
とても親友思いであると共に、詳しく触れられませんでしたが恐らく融のことが好きだったためにそう仕向けたのかもしれません。
美和子は見た目も整っており頭も良く、言動もしっかりした才色兼備な女の子です。杏奈が引っ越した後も貴子の親友であり続け、歩行祭にて融と貴子が異母兄弟であることを知っていると打ち明けます。この行動がなければ貴子も融へ話かけることはなかったかもしれません。歩行祭という日常とはかけ離れた状況だったからこそナイスタイミングでしたね、グッジョブ美和子。
こちらも詳しく触れられてませんが融に少し気があるような言動もあります。融くんモテますねぇ。
それぞれの親友がうまいこと助けてくれたからこそ融と貴子はお話をすることができました。親友と呼べる存在がいるだけでもとても幸せなことだと感じます。これまでもずっと親友であり続けてほしいと共に、高校生から大人へと成長した彼らのその後のお話も読んでみたいですね。
恋愛以外の青春物語
高校生の歩行祭を描いた本作、周りで色恋沙汰はあれど恋愛を主としたお話ではなく異母兄弟である2人の悩みを主題とした物語でした。
少し重たくも感じるテーマではありますが、最後はハッピーエンドと言える終わり方。恋愛以外でここまで青春を真っ直ぐ感じられるお話も他になかなかありません。
登場人物全員の考えが丁寧に描かれているので想像もし易く、自分がもし同じ立場の高校生だったらどのような行動にでるのか、より想像を膨らませながら読み進めていました。
ドラマのように綺麗事だけではない世の中、様々な葛藤の中で彼らはこうして大人になっていくんだなぁと考えると、なんだか温かい気持ちにもなります。私も歳ですかね…。
私も彼らの青春を分け与えてもらったような気分になりました。何度読んでも素敵な話だと感じる物語。老若男女問わず、多くの方が楽しめる名作でした。
夜のピクニックまとめ
今回は夜のピクニックのネタバレ感想と簡単なあらすじをまとめてみました。
高校時代の青春行事、右往左往ありましたがきっと今後も良い思い出として彼らの心に残っていくでしょうね。
自分自身の高校時代に想いを馳せながらぜひ読んでみてください。
本記事が少しでも多くの方の参考となりましたら幸いです。