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「新釈 走れメロス 他四篇」あらすじと感想をネタバレなしでまとめる

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本記事では「新釈 走れメロス 他四篇」のあらすじと感想をネタバレなしでまとめています。


森見登美彦著「新釈 走れメロス 他四篇」

2007年3月祥伝社より刊行、2009年に同社で文庫化されていますが2015年には角川文庫からも文庫本が発売されています。角川文庫版の表紙絵は森見登美彦さんの作品でお馴染みのイラストレーター・中村佑介さんがデザインされたもので、黄色地に女の子の横顔が大きく描かれた表紙絵がとても可愛らしく目につきやすいですね。

中村佑介さんデザインの森見作品は他にもあり、おしゃれで集めたくなっちゃいませんか?(私は全て集めました)

さて、本作ですがタイトルにある通り太宰治の名作「走れメロス」を始めとした不朽の名作を新たに森見登美彦さんが解釈し、独自の世界観に落とし込んだ内容となっています。一体どんなお話に生まれ変わっているんでしょうね。

さっそく簡単なあらすじと読んだ感想をネタバレなしでまとめましたので、ぜひご覧ください。

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「新釈 走れメロス 他四篇」あらすじ

「新釈 走れメロス 他四篇」は以下5つのお話からなる短編小説集です。

  • 山月記(原典:中島敦)
  • 藪の中(原典:芥川龍之介)
  • 走れメロス(原典:太宰治)
  • 桜の森の満開の下(原典:坂口安吾)
  • 百物語(原典:森鴎外)

「新釈」という言葉通り森見登美彦さんがこれらのお話を新しい視点から解釈し、森見作品の世界観に落とし込んだパロディー作品。

確かに話の流れは原典と同じなんですが、登場人物はもちろんのこと目的や背景も全く異なるので原典を知っている方でもかなり楽しめます。もちろん原典を知らなくでも十分楽しめるのでご安心を。

ここからはそれぞれのあらすじを簡単に記載していきます。

山月記

大文字山のふもとにある法然院近くのアパートで暮らす大学生・斎藤秀太郎は秋刀魚が大好物。それ以外に彼が熱中しているのは文章のみ。現在はドエトフスキー的大長編小説の完成を目指して、ただひたすらに執筆活動を行なっていた。しかし読んでくれる人は一人としていない。

大学三回生になると周りは彼の活動に懸念を示すが動じることはない。やがて皆卒業の時期になり、斎藤は卒業式を見物しにいった。友人たちの前でも彼は余裕で笑う。

俺には自分が名を成すことがありありと分かっている。

「新釈 走れメロス 他四篇」森見登美彦著 祥伝社(2007/3/13) より引用

大学の仲間たちは苦笑いし去っていくのだった。

藪の中

サークル内で作成された映画「屋上」は主役同志の熱烈な接吻映像が延々と続くという噂が広がり、上映前からかなりの話題となっていた。噂が広がった理由のひとつに徹底した秘密主義が上げられる。撮影から上映に至るまで、サークル内にすら脚本を見せてもらったものはおらず、どこでどんな撮影をしているのか誰も分からなかった。

監督は鵜山、主演は長谷川と渡邊だったが上映会に主演2人の姿が無かったのも無理はない。男2人に女1人が密室に近い環境で、しかもそのうち2人は付き合っていてあとの1人は元恋人。こんな企画、揉める理由しかないのだ。

揉めて然るべきだ。いっそ殺し合って全員死ねと俺は思うね。

「新釈 走れメロス 他四篇」森見登美彦著 祥伝社(2007/3/13) より引用

この3人が撮影期間中にどんな時間を過ごしたか、真相は藪の中?

走れメロス

芽野史郎は激怒した。必ずかの邪智暴虐の長官を凹ませねばならぬと決意した。

「新釈 走れメロス 他四篇」森見登美彦著 祥伝社(2007/3/13) より引用

この日、大学生の芽野史郎は一大決心をして講義を受けるために大学へとやってくる。しかし大学構内はお祭り騒ぎだった。今日から学園祭が開幕し全ての講義が休講となっていたのだ。

ふと経って、同じ詭弁論部の親友・芹名雄一はどうしているか気になった。部室へ向かうがその扉は固く閉ざされており、代わりに路上で炬燵にあたる部員たちが見える。

聞くと部室を奪ったのは図書館警察の長官だという。長官初恋の相手が生湯葉に目がないため、その研究会を作ろうと奪う部室をクジ引きで決めたらしい。

我慢のならない芽野は部室を取り戻そうと生湯葉研究会へと向かうのであった。

桜の森の満開の下

南禅寺から銀閣寺まで流れる琵琶湖疏水の並木道は「哲学の道」と呼ばれ、京都の桜の名所のひとつになっている。その道沿いに建つ鉄筋コンクリートのアパートには陰鬱な顔つきの男子大学生が暮らしていた。住む部屋の四畳半はこれまで集めたガラクタで溢れ返っていたが、男はそこで小説を書くことがなにより好きだった。

世界をこの手に握っているみたいな感じがする

「新釈 走れメロス 他四篇」森見登美彦著 祥伝社(2007/3/13) より引用

書くことがいくらでもある男はそう語っていた。入学した年の春、男が満開の桜が咲く哲学の道をひとり歩いていると妙な気持ちになって足を止めた。延々と続く満開の桜を見ていると、とてつもなく怖くなり妙に嫌な気持ちになるのだ。いつかこの謎を解こうと思うが気分は乗らず、そのまま4年目の春を迎えた。

百物語

これは私が百物語の催しに出かけた話である。

「新釈 走れメロス 他四篇」森見登美彦著 祥伝社(2007/3/13) より引用

百物語とは、座敷に百本の蝋燭を立て怪談をひとつ話す度に明かりをひとつずつ消し、徐々に身の回りを闇に近づけるなんとも不気味な遊びである。F君曰く、百本の明かりを全て消すのは無謀なことだから敢えて途中で終わらせるものだそう。最後の明かりが消されて闇に包まれた時、真の化物が姿を現す。

私はイギリスから帰ってきた後、数日間実家で過ごしてから京都へと戻った。夜は学部で同じクラスだったF君と会う約束をしている。薄暗い喫茶店でF君と夕食を済ませ、珈琲を飲んでいた時にF君は私を百物語へと誘った。聞くだけの人間も大勢いるとのことだったので私は興味本位でそこへ参加することにした。

「新釈 走れメロス 他四篇」感想(ネタバレなし)

それでは「新釈 走れメロス 他四篇」の感想をまとめてまいります。極力内容についてネタバレを含まないようにまとめていますので、まだ読まれていなかたもぜひ参考にしてみてくださいね。

完全な別物かと思いきや

日本の文学史に刻まれた5つの名作を新釈し、新たな作品として蘇らせた本作。登場人物や背景などはまったく異なり全て現代に置き換えられていますが、読み進めるとやっぱり原典にうまいこと沿ったお話になっていてとても面白い。恐らくパロディー作品と言われずに読んでいても、どことなくこの作品と似ているなぁと感じるはず。

メロスが京都の大学生になっていることはとても驚きましたが、これはこれできちんと成り立っているのがすごいところ。改めて森見登美彦さんの発想力に驚かされますね。原典主義の方々も騙されたと思ってぜひお手に取ってみてください。

あとがきでは森見さん自身も無謀な挑戦だったと語っておりましたが、小説家の腕が並大抵ものではここまでの仕上がりにはできなかったことでしょう。原典を知りつつ本作を読んでみると、何がどう起き変わっていたのかを理解できるのでより楽しめそうです。

走れメロスがめちゃくちゃ笑える

5つのお話の中でも特にコメディ感が強く笑えるのが走れメロスです。本記事で内容について触れるのは簡単なあらすじのみとさせていただきますが、とにかく読んで欲しい。良い意味でしょうもない、いやほんと良い意味でくだらない内容ではあるんですがそれが良い。

森見作品の中でも屈指のギャグ路線に走っているのではないでしょうか。他作品とはまた違った作風ですが、森見さんといえばの京都や一風変わった大学生などが登場し、「図書館警察」などどこかで聞き覚えのある単語も出てくるので森見作品好きも十二分に楽しめる。

そして文字だけでこれだけ笑えるのかという、ある意味での感動を味わってみてほしいです。(笑)

一篇の長さがちょうど良い

本作には5つのお話が収録されていますがひとつひとつのお話のボリュームはそこまで多くなく、一篇でおよそ50ページほど。移動時間や休憩中に少しずつ読んでも数日で読み切れるくらいなので、読書初心者でも難なく読み進めることができるでしょう。

本を手に取ったときに分厚さを感じると少しだけ読むのが億劫になることありますよね、私はたまに購入したまま手を付けず積読になることがしばしば…。読み始めればなんてことはないんですが、それまでのハードルがどうしても高くなりがちです。

あまりにも面白い作品だともっとボリューム感があっても良いのでは…と感じますが、本作は原典あってこその作品。もちろんもっと読みたい気持ちもありつつ、きちんと原典に沿った結果こうなっているので惜しみつつも一気読みしてしまいました。

まとめ

今回は「新釈 走れメロス 他四篇」のあらすじと感想をネタバレなしでまとめました。

走れメロスなどの不朽の名作たちが森見登美彦さんによって新たな顔を覗かせていて、とても楽しみながら読了することができました。文章量もほどよく、学生の読書感想文にもちょうどいいのではないでしょうか。

太宰治や中島敦、芥川龍之介などの近代日本文学が好きな方、また元となる作品を読んだことがある方に強くオススメです。ぜひご興味が湧きましたお手に取ってみてくださいね。

本記事が少しでも多くの方の参考となりましたら幸いです。

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