本記事では太陽の塔の感想と共に水尾さん研究とはどういったことなのかを簡単にまとめています。これだけ追われる水尾さんにはきっと魅力がいっぱいある、はず。
森見登美彦著「太陽の塔」
これまで森見作品は「夜は短し歩けよ乙女」や、「新釈 走れメロス 他四篇」などを読んできました、果たして本作はどういった内容になっているのかとても気になるところ。
ずっと読もうと思っておったのですが内容の知らない書籍は基本表紙絵のデザインで判断していたので、森見作品といえば中村佑介さんのイメージが強すぎてなかなか購入には至っておりませんでした…。
ということで満を辞して読了した太陽の塔。あなたも水尾さんのファンになること間違いなし?
太陽の塔の概要
2003年12月20日新潮社より刊行、数多くの名作を世に残している森見登美彦さんの記念すべきデビュー作。
同年には第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。森見さんはその後に同賞の選考委員も務めています。
ちなみに2006年には文庫化もされており、こちらの解説は森見ファンと公言している女優や声優、エッセイストとして活動中の本上まなみさんが務めています。本上さんと言えば私が子供の頃によく観ていた「おでんくん」のイメージが強いです。面白いですよね、おでんくん。
太陽の塔のあらすじ
何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。
「太陽の塔」森見登美彦著 新潮社(2003/12/20) より引用
京都大学の学生である私はわけあって長い逃亡生活へと入り、現在は休学中の五回生である。三回生まではまるで華のない学生生活を過ごし、特に女性に関しては絶望的に縁に恵まれなかった。
しかし三回生の夏頃、私はいわゆる恋人を作ってしまった。相手は水尾さんという某体育会系クラブの進入部員で、私は先輩としての特権を酷使し考えうる策をやり尽くして彼女と付き合うに至った。
だが私は彼女に振られてしまい、それから所謂「水尾さん研究」を行うことにした。彼女からは研究停止の宣告を受けていたが私はへこたれない。
彼女はすでに私の恋愛対象ではなく、私の人生固有の地位を確立したひとつの謎とも言えた。これはストーカー行為などではなく、この謎に興味を持つことは至極真っ当なことである。
研究の最中、私は水尾さんを追うもうひとりの男「遠藤」と出会う。彼は私の水尾さん研究を妨害するが、私も負けじと応戦する。
季節は冬、クリスマスになると四条河原町ではええじゃないか騒動が起きていた。
強烈な癖を持つ大学生が京都の街を奔走、果たして私の研究がたどり着く先はいずこ。
太陽の塔の水尾さん研究とは
次に本作に登場する「私」が行なった水尾さん研究について簡単にまとめます。
そもそも水尾さん研究とは
水尾さん研究とは「私」が行なった、元恋人の水尾さんとのメールやりとりや彼女の日々の行動を観察し、レポートとしてまとめたものです。
作成レポートは全部で14、400字詰めの原稿用紙に換算すると240枚にのぼるという大学生にとっては大論文。この量の多さだけで「私」の水尾さんに対する熱量が窺えますね。
水尾さん研究の内容は?
水尾さん研究の内容は彼女の1日の行動把握や、活動の尾行など多岐に渡ります。
この研究は昨今よく話題になる「ストーカー犯罪」とは根本的に異なるものであったということについて、あらかじめ読者の注意を喚起しておきたい。
「太陽の塔」森見登美彦著 新潮社(2003/12/20) より引用
「私」自身は断じてストーカーなどではないと言っていますが周りから見ればどう考えてもストーカー行為でしょう。そりゃあ水尾さんも研究停止宣告を出しますよね(笑)
太陽の塔の感想(レビュー)
かなり癖のある大学生の行動に大変笑かせられるお話でした。今まで読んでいなかったのがもったいない…。
ここからは太陽の塔の感想(レビュー)を3つの点に分けてまとめていきます。
ある大学生の恋愛物語
あらすじを見てお分かりのとおり、本作の内容は主人公である「私」が元恋人の水尾さんを追う未練タラタラ恋愛物語です。しかし「私」はそれを一切認めずあくまで「水尾さん研究」として活動を続けます。
大学五回生ということなので現役合格していれば23〜24歳くらいでしょうか?若気の至りもあってか、なんとなくまだ好きだということを認めたくない気持ちは読んでいても凄く分かります。私自身もそんな時代がありました…(照)
とにかく水尾さんを好きだけれど振られてしまった手前、プライドが邪魔してどうもできない。だけど自分には嘘を付けない。読み手としてはもっとストレートにぶつかりなさいとも感じますが、女性慣れもせず捻くれてしまった「私」にとってはかなりハードルの高かったことなんでしょう。
終盤になるにつれて「私」が可愛く見えてきたのは歳を取ってしまったからでしょうか(笑)ストーカー紛いの行為をしつつも水尾さん研究を進める彼の行動に笑いつつ「キラキラした青春」とはとても言えない、だけどこんな青春があってもいいかもと感じる素敵な物語をぜひ堪能してみてくださいね。
感じる京都愛
著者の森見登美彦さんと京都は切っても切れない関係性。他の多くの作品も舞台は京都になっていますし、森見さん自身も京都大学のご出身です。ちなみに森見さんのお父さんも京都大学出身であり、自身が入学したのはそれが大きな理由で元々京都はそこまで好きではなかったとのこと。
しかし京都らしさを全然エンジョイできていないと感じ、ちょっとしょぼくれた京都であれば自分でも書けるのではないかと考え大学生目線で京都を舞台にした作品を書いたそうです。
本作も舞台はもちろん京都。世界的にも日本の古都として超有名ですし、どこか非日常感のある雰囲気は森見作品のファンタジー感強めの世界観にぴったりハマっていますよね。
今となってはお馴染みの舞台・京都ですが、デビュー作からすでに京都のお話を書いているとは。インタビューではこの作品がきっかけで京都の良さを感じてきたと語っていたので、森見さんの京都愛を育んだ作品とも言えますね。もはや聖地と化している京都、いつか作品に出てくる聖地巡りもしてみたいものです。
読者を唸らすデビュー作
先にも触れましたが本作は森見登美彦さんのデビュー作です、京都大学在学中にこの素晴らしい出来の物語を書き上げていたのですから恐ろしい才能ですね。第15回日本ファンタジーノベル大賞も受賞し華々しいデビューを飾ります。
その後には「夜は短し歩けよ乙女」などの大ヒット作も生まれ、日本を代表する小説家のひとりとなっていますが本作から既に面白さは健在。ファンタジー感強めのユニークさに加えて、真面目なところはきちんとシリアス感が出ている。このクオリティの小説を大学生が書き上げたとなると驚きを隠せません。
発表されたリアルタイムで読みたかったなぁと感じつつそれはもう叶わないので、森見さんがデビューした当時に想いを馳せながら、今後の活躍にも期待し新作を待ち続けたいと思います。現在の森見さんの最新作「シャーロック・ホームズの凱旋」の書評記事もありますのでそちらもぜひ。
太陽の塔の感想と水尾さん研究まとめ
今回は太陽の塔の感想と水尾さんを追った「私」の研究について簡単にまとめました。
大学生はもちろんのこと青春を忘れかけている私のような社会人にも見てほしい、とても素晴らしい作品になっております。森見さんはデビュー作からすでに京都と大学生を主に据えた作品を書いていたんですね。
ここから始まった森見さんの小説家人生。森見作品はこの他にも記事をまとめていますのでぜひご覧になってみてください。
本記事が少しでも多くの方の参考となりましたら幸いです。